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肝臓を研究する

体重の約2%を占める肝臓は、体内最大の臓器であり、体の糖脂質代謝恒常性の維持に中心的な役割を果たしています。実際に、肝臓での糖脂質代謝の異常は、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病に直結することが知られています。一方で、糖尿病を始めとする代謝関連疾患では、非アルコール性脂肪性肝疾患などの肝臓疾患の誘因となることも明らかにされています。これらの事実は、体と肝臓の代謝調節とその破綻が、お互いに密接に関連することを示しています。

私たちの研究室では、肝臓糖脂質代謝の調節機構とその役割を解明するために、①肝糖代謝調節のメカニズム、②脂肪肝などの肝臓代謝異常が、肝障害を引き起こす仕組み、③糖脂質代謝異常で引き起こされる肝臓の異常を予防・治療する方法、などの研究を行っています。

肝臓の糖代謝調節を研究する

肝臓は摂食時にブドウ糖を取り込み、また、空腹時にブドウ糖を産生することにより、血糖値の恒常性を維持しています。このような肝臓の血糖値維持機構は強靭であり、実際に、2型糖尿病で見られる空腹時血糖の上昇は肝糖産生の亢進と相関することが知られています。

肝糖代謝は、様々な臓器から多彩な制御を受けています。もっとも強力に肝糖代謝を制御する臓器が膵臓です。膵臓は、食後にはインスリンを分泌し、肝糖取り込み増加・肝糖産生減少を引き起こします。また、空腹時には、グルカゴンを分泌し、肝糖産生を増加させることで、血糖値を維持します。一方で、肝糖代謝は、視床下部・自律神経系による制御を受けることも知られています。視床下部・自律神経系は、膵臓でのインスリン・グルカゴン分泌を調節するとともに、肝臓に直接作用し肝糖産生を制御しています。

私たちの研究室では、臓器連関による肝糖代謝調節の仕組みの解明を行ってきました。特に、視床下部・自律神経系による肝糖産生調節については、視床下部による迷走神経抑制とそれに伴うクッパー細胞IL-6分泌の増加と肝細胞STAT3の活性化が、重要であることを明らかにしています(図1;Cell Reports, 2016/ Diabetes, 2013/ Cell Metab., 2006/ Nat Med. 2004)。臓器相関による肝糖代謝調節の仕組みは、謎ばかりです。このような謎を解決することで、糖尿病などの生活習慣病の病態理解、新規な疾病予防・治療法の開発に繋がると考えています。

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図1)視床下部・自律神経系による肝糖産生調節

視床下部は、食事摂取に伴う血中インスリンレベルの増加などを感知し、クッパー細胞IL-6産生を増加させ、肝細胞STAT3を活性化し、肝糖産生を抑制する。この視床下部による肝臓IL-6/STAT3シグナルの制御は、迷走神経/ Ach/ α7型ニコチン性Ach受容体(Chrna7)を介している。

肝代謝異常が肝障害を起こす仕組みを研究する

肥満やインスリン抵抗性に伴い、肝臓に脂肪が蓄積することが知られています。このような肝臓の脂肪蓄積は、いわゆる脂肪肝ですが、今日では、健康診断受診者の20~30%で認められます。脂肪肝の一部が、脂肪肝炎や肝硬変へと進行することから、これらは一連の病態であり、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)として予防・治療の必要な疾病であると考えられています。脂肪肝から脂肪肝炎への進行・増悪については、脂肪蓄積とともに、酸化ストレスや小胞体ストレス、炎症などが関与していますが、その詳細な分子メカニズムは明らかにされておらず、また、NAFLDの予防・治療法も食事・運動療法以外には十分に確立されていません。

私たちの研究室では、肝切除後の肝再生モデルを用いた検討から、脂肪肝では、肝臓再生過程で細胞死がおこり、肝障害が遷延するという知見を明らかにしています。また、このような脂肪肝での肝細胞死の発症メカニズムに、小胞体ストレスへの細胞応答が関与することも見出しています(図2;Hepatology, 2015)。脂肪肝での肝障害の増悪やNAFLDの進展への、細胞内ストレスや細胞死の関与とそのメカニズムを明らかにすることを目指しています。

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図2)脂肪肝での肝細胞死と肝障害

脂肪肝では、小胞体ストレスが増強し、肝再生過程での細胞死が増加する。肝再生過程での細胞死の増加は、肝障害からの回復遅延やNAFLDの進展に関与する可能性が指摘されてる。図は、小胞体ストレス増強モデルにおいて、肝再生過程で肝臓壊死が起こっている組織像である (Hepatology, 2015; 61(4):1343-56.より抜粋)。

肝臓異常を、食により予防・治療する

NAFLDの進展予防・治療として、食事療法を中心とした生活習慣の改善が、最も効果的とされています。NAFLDの食事療法として、適度なカロリー制限による体重減少が有用であるとされており、カロリー制限による約10%の体重減少により脂肪肝が軽減し、NAFLDの進展が抑制されることが報告されています 。しかし、近年では、摂取カロリーとともに、食事中の栄養素が、NAFLDの発症・進展を抑制する可能性も指摘されています。実際に、ヒトでの検討において、多飽和脂肪酸の摂取は、体重減少を伴わずに、NAFLDの進展を抑制することが報告されています。また、げっ歯類での検討では、大豆タンパクの摂取が、肝臓中性脂肪蓄積を減少させることが明らかにされています。私たちの研究室では、主にたん白質・ペプチド・アミノ酸食材の摂取により、肝糖脂質代謝にどのような影響が起こるか、またNAFLDの予防・治療作用を持つのかを研究しています。将来的には、研究室発のNAFLD予防・治療食材を見出したいと考えています。

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